医療 離職

スタッフの離職を防ぐ方法と離職率の現状について

医師の会議

医療・介護分野における離職率の現状

医療や介護の仕事は「肉体的、精神的な負担が大きいわりには報酬が見合わず離職率が高い」というイメージがありませんか。 他の職業より離職率は本当に高いのか、個人病院、医療法人で医療に従事する方、社会福祉法人で介護職に従事される方の離職率をそれぞれ見ていきましょう。

医療分野の離職率

日本看護協会の調査によると、個人病院・医療法人の看護職員の離職率は10.7%と横ばいで、都道府県別に見ると、東京14.5%、神奈川13.1%、埼玉12.4%、千葉12.8%と首都圏で高い傾向にありました。

介護分野の離職率

公益財団法人介護労働安定センターが平成 29 年度に実施した調査によると、介護職に従事している人の離職率は介護職員、訪問介護員合わせて16.2%で、多少の変動はあるものの横ばいの数値でした。

離職者の勤続年数は1年未満が約40%と、長く続けることなく離職する人が多い傾向にあります。 正規職員の離職率は、東京、神奈川などの首都圏で高くなっています。

他業種と比較すると高くない離職率

正規雇用看護職員の離職率は10.7%、介護職の離職率は16.2%という数字を他業種と比較してみましょう。 厚生労働省が毎年発表する『雇用動向調査』によると、平成30年1年間の離職率平均は14.6%でした。

業種別に見ると、離職率が高いのは26.9%の宿泊業・飲食サービス業です。 生活関連サービス業・娯楽業も23.9%と高い数字を出しています。 医療や介護職の離職率は介護職が平均を上回るものの、そこまで高い離職率ではないことがわかります。

しかし、医療介護の現場では「人が続かない」という嘆きの声が後を絶たず、スタッフの確保は医療介護業界の常在の課題です。 なぜスタッフが辞めるのか、その理由を見ていきましょう。

医療スタッフが離職する理由

医療・介護、両分野での離職率が高い理由を、実際の職員から多くあがる声をもとに詳しく見ていきましょう。

仕事量が多く常に忙しい

看護職の時間外労働、夜勤や交代制勤務の実態は、過労死のハイリスクに当てはまる人が約2万人もいるほどの労働状況であることがわかりました。

問診、各種検査、点滴や注射など医師の診察・指示に基づいて患者の診療を補助したり、患者の移動介助や体位変更、入院している人には食事・排泄の補助など、専門的なものから身の回りのお世話まで多岐にわたります。

患者の心のケアも加わり、体力的にはもちろん精神的にもキツイと感じている看護士の方が多いようです。 医療ミスを起こさないために、行動にも言葉遣いにも高い集中力と繊細な心遣いが必要とされます。 心身常に忙しく気を抜く暇がないのが看護職です。

業務内容と給料が見合っていない

「きつい、きたない、危険」の3Kは大変な職業を表わす言葉ですが、看護師はなんとその上をいく9K「キツイ・汚い・危険・休暇が取れない・規則が厳しい・化粧がのらない・薬に頼って生きている・婚期が遅い・給料が安い」だと言われています。

休む間もないほど仕事量が多く、肉体的な厳しさ、人の命に関わる精神的な厳しさの双方が重くのしかかってくる業務内容であるにも関わらず、高いとは到底言えない給与なのです。

夜勤手当がつくと、確かに同世代の企業にお勤めの人よりも高くなりますが、平均基本給は大卒で20万円と平均的な数字です。 多くの看護士が、仕事量に給与が見合っていないという不満を抱いています。

夜勤がつらい

看護職員の夜勤は月平均4.5回(二交代制)と2017年度から増加傾向にある一方、夜勤手当は11,019円(二交代制)と2015年以降、ほぼ横ばいです。

消灯時間を過ぎてすべての患者さんが寝ているという日は一日たりともなく、頻繁に鳴り響くナースコールに対応し、夜中の病院を走り回ることもしょっちゅうで、日勤の看護師が残した仕事は夜勤の看護師に回ってくるため、来院患者がない夜勤でも事務作業が続きます。

そしてなんといっても、夜勤が辛い一番の理由は太陽に逆らった夜中の勤務です。 体内時計が完全に適応することはなく、昼夜逆転した生活は身体への負担となって大きくのしかかって来ます。

健康状態の悪化(肉体的/精神的)

始業時刻前に開始する業務や勤務時間外に開かれる研修、持ち帰りの仕事など、時間外勤務として扱われていない業務が多いことも日本看護協会の調査によって明らかになりました。

夜勤では平均勤務時間は16時間など、長時間労働が慢性的な過労状態をもたらしています。 そうした業務量の多さや、命に関わる職業ゆえの緊張感や患者からのクレームなどに追い詰められて、自律神経失調症やうつ病などを発症することもあるのです。

人間関係が良くない

早期退職者、一番の退職理由が「人間関係」です。 「先輩に仕事を押し付けられてキツイ」「患者さんや先生への愚痴ばかりの環境に辟易する」など、スタッフ間の人間関係悪化は、業務量の多さや患者さんとの関係など看護師特有の環境による心のゆとりの喪失から生じます。

医療分野でスタッフの離職を防ぐためにできること

夜勤もありの長時間労働で、肉体面でも精神面でも辛さを抱える医療現場スタッフの現状を改善し、医療従事者の離職を防ぐための働き方改革が叫ばれています。

仕事量の改善:システムを使った業務内容の効率化

医療補助から患者さんの身の回りの世話まで、はなからキャパオーバーを招くことがわかっている仕事量を適正量に整える必要性があります。

問診票のデジタル化で入力作業の手間をカット、また、web予約・診察の待ち時間がわかるシステムを取り入れた受付の業務削減などで、効率化を図りましょう。

労働条件の改善:残業手当/有給取得など福利厚生の見直し

仕事量の調整が難しい場合には、仕事量に見合った給与や手当が出ているか、仕事量と給与のバランスの見直しを図ります。

また、長時間労働した分、有給が取得できるなど仕事から離れて心身を休ませる時間がとれるよう、福利厚生をしっかり整え職員を労わりましょう。 育児や介護中のスタッフには時短勤務を許可するなど、スタッフの仕事への満足度を高める労働環境への改善が必要です。

人間関係の改善:コミュニケーションをとりやすい環境づくり

人間関係は医療現場スタッフ離職原因のナンバーワンです。 上司や同僚に加えて患者さんやその家族など人間関係の幅が広いことや、常にチームとして業務に当たらなければならない環境は悩みが生まれやすいのです。

そうしたスタッフの悩みを日ごろから相談できる時間や場所を作る、定期的に働き方を見直せるよう忌憚なく意見できる仕組みを作るなど、離職を考えるまで悩みが蓄積しない職場環境をクリニックが作ることが急務です。

まとめ

医療や介護の現場では長時間労働が常態化し、医療補佐から患者さんのお世話まで多岐にわたる膨大な仕事量にスタッフの肉体も精神も追いつかず、早期離職が後を絶ちません。 結婚、出産、介護とライフステージによる離職もありますが、労働環境への不満が原因で長く続かないケースが多くあるのです。

医師、患者、スタッフ同士と常に3方向に気を使わなければならない医療・介護職特有の人間関係も大きな離職理由です。 早期離職を防ぐため、人間関係という環境を構築する基盤から院内労働環境の改善が求められています。

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